ゲーム音楽史 第6回はゲーム音楽「第一次黄金期」後編ということで、1988年から1990年頃のお話です。
アーケード、PC、コンシューマーが揃って発展して最盛期となった黄金期は1989年頃までと思いますが、ここでは1990年11月のスーパーファミコン登場以前までを含めて書きます。今回もプラットフォームごとにまとめていきます。
アーケードゲームはPCM音源採用も
ファミコンの爆発的な普及で主役の座を明け渡しつつあったアーケードゲームですが、1990年頃まではハードウエアの面で圧倒的な優位を保っていました。
特筆すべきはリズムパート以外にもPCM音源が使われ始めたことでしょうか。
PCM音源は、生の楽器音などをサンプリングしたものを再生する仕組みで、CDにも使われている記録方式です。
サンプルの容量次第ではかなりリアルな楽器音再生が可能で、技術自体は結構前からあったようですが、これをソフトウエアで処理するのは1980年代のハードには荷が重かったのです。
PCM音源は、一般の音楽制作の領域でも最初はリズムマシン等の打楽器音源から採用されました。打楽器であれば、少ないサンプル数でもそれなりにリアルに聴かせることが出来たためですが、ハードウエアの性能向上と共に徐々に音程や強弱感などの情報量が多い音色にも採用されるようになったのです。
ゲーム音楽の世界では、アーケードゲームは筐体やチップにコストをかけられる分、PCM音源をコンシューマー機やPCより早くとり入れることが出来ました。
打楽器(あるいは短いSE的な音)のみPCM音源というスタイルは1986年頃から一部のアーケードゲームで採用されていましたが、音程のある楽器音に採用されたのは1988年頃からのことです。
1988年・1989年の音楽が良いアーケードゲーム
1988年・1989年に出たアーケードゲームで、音楽が特に良いと思うものを挙げていきます。
ニンジャウォリアーズ(タイトー)
なんといってもPCM音源による三味線!
忍者龍剣伝(テクモ)
「鮮烈のリュウ」は強制的にテンション上がります。
ワルキューレの伝説(ナムコ)
これのメインテーマ、この手のコード進行好きなんですよね。なにげにコナミっぽい?
ダライアス2(タイトー)
音楽は小倉久佳さん。初代ダライアスの音楽には大きな衝撃を受けましたが、2も凄く印象的でした。とくにラスボス戦の「say PaPa」はこの年代一番の力作だと思います。
ガンフロンティア(タイトー)
「ユンファオ」良いですねー。こういうシンプルなマイナー4コードの曲はメロが良いとグッときます。
うん、タイトーが多いですね。これは自分の好みですね(笑)
アーケードゲームは、このあたりからゲーセン通いしていた客層をコンシューマー機に食われて徐々に低迷します。
PCは8ビットから16ビットの時代へ
この年代(1980年代末)、PCは16ビット化が進んでいきます。
主役はPC-88シリーズからPC-98シリーズやX68000へと移っていきます。
そして富士通からは次に紹介する「FM TOWNS」が登場。PCもいよいよCD-ROMとPCM音源の時代がやってきます。
FM TOWNS
1989年2月、富士通が32ビットのPC「FM TOWNS」を発売します。
PC-98シリーズ、X68000シリーズに対抗してのものですが、出遅れを取り戻そうというのもあったのか、16ビットをスキップしていきなりの32ビットPCの投入となりました。
さらにCD-ROMも標準で搭載していました。国産PCとしては初でした。
グラフィックはX68000と同等、サウンドはFM音源ステレオ6音、PCM音源ステレオ8音と、当時としては超豪華なものでした。
FM TOWNSシリーズはヒットし、1995年あたりまでPC-98シリーズ、さらにはPC/AT互換機(いわゆるDOS/V機、WindowsPCの前身)とも競合しながら健闘をみせています。
1989年から1990年のPCゲーム音楽お薦めタイトル
この時期、ハードは16ビット化が進みますが、ゲーム音楽的には8ビット向けのものや、MSXのコナミSCC音源タイトルなどもまだ元気です。
ゲーム音楽おすすめタイトルをあげていきます。
YAKSA(ウルフチーム)
や●ざ……いや、ウルフチームだし曲は良かったですよね。
王家の谷 エルギーザの封印(コナミ)
DS版悪魔城ドラキュラ・ギャラリーオブラビリンスでアレンジ曲が出てきました。エンディングもGood。
イース2(ファルコム)
オープニング「To make the end of battle」は古代祐三さんの代表曲の一つです。
X68000版ボスコニアン(電波新聞社)
古代祐三さんが音楽を担当。「Flash Flash Flash」は有名曲。
スナッチャー(コナミ)
PC88とMSX2で発売されたアドベンチャーゲーム。MSX2版はSCC音源専用のカートリッジが同梱されています。コナミMSXのSCC音源はベースの音良かったですよね。タイトル曲「Twilight of Neo Kobe」は88版もMSX2版も甲乙つけがたい出来でした。
ザ・スキーム(ボーステック)
これも古代さんの代表作。88用サウンドボード2に対応して分厚いサウンドを出していました。
レイドック2(T&Eソフト)
タイトル曲はガンフロンティア「ユンファオ」と同系統マイナー4コード。タイトル曲の泣きのメロディが最高でした。
信長の野望 戦国群雄伝(光栄)
この時代の信長シリーズではこれのオープニング曲が一番好きです。
ラストハルマゲドン(ブレイングレイ)
FM-TOWNS版の「戦闘 昼」はもはや伝説レベル。ほんとに80年代?
アレスタ2(コンパイル)
コンパイルのシューティングBGM好きなんですが、その中でもこれのエリア1の音楽が一番好きでした。
――この後、PCゲームはアーケードと同じくコンシューマー機に食われて衰退しますが、コンシューマー機だと発売できないアダルト系や、細かい表示が要求されるシミュレーション系などで生き残っていくことになります。
商業的には家庭用ゲームが一人勝ちに
このあたりからゲーム業界はコンシューマー機がアーケードゲームやホビーPCを圧倒して一人勝ち状態となっていきます。
ここ数年の間にファミコンのユーザーは数千万人単位へと膨れ上がって、家庭用ゲーム市場は日本の一大産業へと成長。
ゲームメーカーも業務用やPC向けからファミコンなどのコンシューマーゲーム機のソフト開発をメインにするのが当然のこととなり、この流れは2010年以降スマートフォンが普及するまで続くことになります。
よって、ゲーム音楽もこの年代以降、コンシューマーゲームを中心に発展していくこととなるのです。
1980年代末のファミコンの状況
1987年ごろから急激な発展をみせたファミコンのゲーム音楽ですが、その勢いはしばらく続きます。
スーパーファミコンが発売された後も1991年頃までファミコンでは一定数のタイトルが発売されていました。
そうした末期のものは拡張音源が使われたり、音源の使い方も熟練して音楽的には名作が多いです。
メガドライブ
1988年10月、セガはマークⅢの次世代としてメガドライブ(Genesis)を発売します。
メガドライブは16ビット機で、マークⅢから大幅に性能が上がっています。
サウンドは6チャンネルFM音源でしたが、このうち1チャンネルはPCM音源として使用可能でした。
コンシューマー機もようやく標準でFM音源を搭載しましたが、まもなくスーパーファミコンとともにPCM音源の時代が到来するので、その賞味期限は短いものとなってしまいます。
メガドライブは性能的にはファミコンを圧倒し、北米ではスーパーファミコンと互角の売り上げを記録していますが、日本ではファミコンのソフト資産の力が圧倒的に強く、任天堂からシェアを奪うには至りませんでした。
ゲームボーイ
1989年4月、任天堂から携帯型ゲーム機、ゲームボーイが発売されます。
これはモノクロ液晶+波形メモリ音源と、当時としても今更感のスペックで、任天堂社内でもセールスを疑問視する声が強かったようですが、低年齢層を中心に徐々に売り上げを伸ばし、ロングヒット。最終的には、ポケットモンスター(1996年)で社会現象を起こすまでになります。
サウンドは波形メモリー1ch+パルス(PSG)2ch+ノイズ1chとやや変則的ですが、その音質は任天堂独特のもので、ファミコンディスクシステムと同系列の音色でした。
ソフトは低年齢層向けのものが多かったですが、ゲームボーイにしかないタイトルも多く、ハードの現役期間も長かったため相当数の名曲が存在します。
モバイル型のゲーム機はどうしても性能が制約され、音源も1世代前のもので周回遅れ感はありますが、ゲームボーイの音源は独特の味があると思います。
音楽がいいファミコン末期のタイトル
1988年以降のファミコン末期タイトルは、各メーカーがこぞって開発に力を入れたことと、音源やアレンジに習熟してきたこともあり、音楽が良い作品が非常に多く、ファミコンのゲーム音楽は末期にきて全盛を極めている観があります。
自分が特に音楽が良いと思うファミコン末期のタイトルをあげてみます。
ドラゴンクエスト3(エニックス)
個人的に初期ドラクエの音楽では最高傑作と思います。楽曲はもちろんすぎやまこういちさん。
飛龍の拳2(カルチャーブレーン)
「龍戦士のテーマ」は昭和クサメロ系名曲ですよね。
ファイナルファンタジー2(スクウェア)
音楽は植松伸夫さん。「チョコボのテーマ」初登場。自分は「反乱軍のテーマ」が好きです。
MOTHER(任天堂)
音楽に関して、初代ファミコンの任天堂作品ゲーム音楽では最高傑作かと。ゼルダの伝説やパルテナの鏡も傑作と思いますが、曲数などの全体のボリュームという面でMOTHERは圧倒的なので。
悪魔城伝説(コナミ)
自分は初代ファミコンでは一番音楽が好きな作品。PSGベースのものでしたがカートリッジに拡張音源を積んでいて、重厚な音を出していました。ゲーム自体はやたらと難しかったですよね。
ドラゴンクエスト4(エニックス)
3も素晴らしいけど、「勇者の故郷」など4も名曲がたくさんあります。
魍魎戦記MADARA(コナミ)
漫画原作のメディアミックス作品で、ゲームとしてはややマイナーな作品ですが、音楽は驚きの完成度でした。
ファイナルファンタジー3(スクウェア)
「悠久の風」は今でも人気のある名曲です。
女神転生2(ナムコ・アトラス)
アトラスによる女神転生作品第2弾。増子節炸裂してます!戦闘曲と「Another World」(氷づけルシファーのテーマ)が良いです。
ラグランジュポイント(コナミ)
ファミコンでは唯一のFM音源作品。浜渦正志さんがこれのBGMコンテストでデビューしています。
エスパードリーム2(コナミ)
1も良かったけれど、拡張音源の力もあって2の音楽はさらに完成度が高くなっています。
――ファミコン末期は良いものが多すぎて書き切れませんね。
次回はいよいよスーパーファミコンが登場し、ゲーム音楽は本格的にPCM音源の時代へと入ります。
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