ゲーム音楽の作編曲手法【ゲーム音楽論03】

ゲーム音楽論では前回、初期のゲーム音楽に課された同時発音数・音色・制作環境の厳しい制約についてお話しました。

そうした制約がゲーム音楽の「ゲーム音楽らしさ」を生んだ要因にもなっていると自分は考えています。

今回は、前回お話した様々な制約にどのような手法で対応し、ゲーム音楽のスタイルが確立されていったか?という作編曲手法的なことに踏み込んでお話してみようと思います。

作曲と編曲(アレンジ)の違い

ここで、作曲と編曲(アレンジ)の違いについて少し触れておきます。

まず、作曲と編曲はハッキリした境目があるわけではありません。

これは自分の認識ですが、メインメロディーや曲の根幹を形成するコード進行・絶対に外せないフレーズなど、そのあたりは「作曲」の範囲だと思います。

それに対して、変えても支障が無い部分のコード進行やフレーズの変更、新たなパートの追加、楽器編成の変更など、曲の色付けの部分は「編曲・アレンジ」の範疇に入る、というようなイメージです。

料理で例えるなら、ベースになる「カレーライス」があったとします。

カレールーとかご飯とか、変えてしまうと「カレーライス」として成立しなくなる部分が「作曲」の範囲。それに手を加えて「タイ風シーフードカレーライス」とか「欧風野菜カレーライス」とかにするのが「編曲・アレンジ」です。下手にやると不味くなります(笑)

ゲーム音楽の作曲法の傾向

まず、ゲーム音楽の作曲法の傾向から考えてみましょう。

ゲーム音楽の作曲は、当然ながら「作品ありき」で作品中の場面場面に合う音楽を求められるのですが、作曲家側からすると、いつでもすぐに納得がいくクオリティーのものが作れる保証も無いので、余裕のある時にある程度の素材をストックしておくという人が多いのではないでしょうか。

急な依頼も多そうだし、とにかく作曲のスピードを求められるジャンルであることは間違いないでしょう。速い人は数十分で1曲、数日で1作品分の曲を仕上げるようですし。

作曲のやり方は作曲者それぞれ固有のスタイルがあるのですが、バンド系の作曲家はコードバッキング+コードスケール的な発想で作曲する傾向が強いように思います。

1980年代なら川口博史さん、増子司さんあたりがそういう作り方をしますが、作曲の特徴としては、コード進行という「箱」を最初に作る場合が多く、1小節とか2小節毎にきっちりコードチェンジしていたり、4の倍数の小節数で進行するようなまとまりのあるコード進行パターンが多い事でしょうか。

アレンジとしてはロック/フュージョン系やテクノ系を得意とする人が多く、メロディーとコードバッキングとリズムセクションが完全分離しているようなバンド型のものが多いです。

逆にクラシック系の作曲家はメロディーから作って、コードを後付けするような作り方が多い印象で、結果的にコード付けが細かくなったり、コードチェンジのタイミングや小節数がイレギュラーになったりします。

アレンジもあまりコード進行に縛られず、対位法的な副旋律やベースラインをつけていたりして、コード分析が難儀なものとなるケースが多いような。

昔のゲーム音楽のメロディーが強い理由

初期のゲームはグラフィックや扱えるデータ量が貧弱で、「比較的メモリを食わない内蔵音源による音楽で盛り上げる」という手法が効果的なことをゲームメーカーも認識していました。

音楽で盛り上げるといっても、前回までに述べたような厳しい制約があるために、複雑なアレンジや音数を増やす事による厚みで攻める手法は無理で、必然的に、単音で最大の効果が上げられる「印象的で強いメロディー」が求められました。

これが、昔のゲーム音楽のメロディーが強い理由なのです。

ゲーム音楽に求められるメロディータイプ

ゲームのジャンルによって求められる音楽性も変わってきます。

アクションゲームならノリの良さ・集中しやすいテンポ感、RPGなら場面に合わせたドラマ性のある展開、などです。

いずれにしろ、厳しく制約された音数と音色の中で、プレイヤーを高揚させ、ゲームを盛り上げるという目的を達成出来るような強力なメロディーが求められたのですが、そういう方向性で進化していく中で、いくつか典型的なメロディーのパターンが出現してきました。

JMM(ジャパニーズ・メランコリック・メロディー)型メロディー

JMM(ジャパニーズ・メランコリック・メロディー)とは、自分の作った造語なのですが、いわゆる「クサメロ」のことです。

ゲーム音楽論第1回の最後にゲーム音楽のルーツの一つとして、日本の大衆音楽の特徴である「クサメロ」の歴史に触れました。

「クサメロ」という表現は、少しネガティブなニュアンスもある感じがするので、今後、このブログでは「JMM」と呼ぶことにします。

JMMは日本人の深層心理に根付いている切ないメロディーで、1970年代から1980年代のニューミュージック全般がJMMですし、X-JapanはJMMをヘヴィメタルサウンドに乗せて大成功しました。

JMMと西洋の音楽ジャンルの組み合わせは、戦後日本の大衆音楽の王道といっても良いでしょう。

ゲーム音楽と「新型JMM」

ここで、JMMの進化とゲーム音楽の関係性についてお話します。

JMMをマイナー3コード等でコードトーン主体に作ると、どうしても演歌・ムード歌謡チックになってきますよね。

それはそれで魅力もあるのですが、ゲーム音楽は若い世代がターゲットだったので、そこはかなり工夫され、「新型JMM」と呼べるようなものに進化していきました。

具体的には、9th・11th・13thといったテンションノートをメロディーの重要ポイントに組み込む事で、演歌・ムード歌謡化を回避して先進的な響きを獲得していきます。

この「新型JMM」は一部のJポップなどでも使われて現在進行形で進化中だし、インストゥルメンタルの分野では久石譲さん、坂本龍一さんなどが切り開いて来られたジャンルですが、これを全面に出したゲーム音楽は主流派と呼べるくらいたくさんあります。

JMM度合いが高い作曲家としては古代祐三さん、伊藤賢治さんあたりが代表的ですが、それに対してすぎやまこういちさん、浜渦正志さん、崎元仁さんあたりはJMM度合いは低めの印象です。曲にもよりますが。

エンタテイメント型メロディー

エンタテイメント型メロディーは「楽しさ」「ワクワク感」といった演出に特化したタイプのメロディーです。

初期ナムコの大野木宣幸さん作品群が代表的ですが、他にメジャーなところでは、スーパーマリオスターソルジャーバブルボブルなどですね。

基本的にメジャーキーが中心で、テンポは自然に心拍数が上がって楽しい気分になるように設定されていて、アクションゲームやパズルゲームに特化している印象です。

テクノ/ミニマル型メロディー

テクノ系の曲は打ち込みによる電子楽器等のシーケンスパターンがベースになっているのが特徴ですが、ゲーム音楽史で少し触れたミニマルミュージック(ある一定の音型を少しずつ変化させて作られる音楽)とも密接な繋がり(ミニマルテクノというサブジャンルもある)があります。

初期ゲーム音楽は音数が少ないため、そういうシーケンスパターンがそのままメロディーになっていたりしますが、難点は口ずさみにくいこと(笑)

初期のテクノ・ミニマル系ゲーム音楽では、ゼビウス、エグゼドエグゼス、ボンバーマン、グラディウス「ボス戦BGM」「モアイ面BGM」などが有名ですが、忍者龍剣伝(1988年、テクモ)はJMM系+テクノ系のバランスが絶妙でした。

音源が発達してきた1990年代以降は、1曲通してこのパターンという曲は少なくなっていきますが、レトロゲーム系の音色と組み合わせることで「ゲーム音楽感」を簡単に出せる手法なので、今後も重宝されると思われます。

クラシック型メロディー

クラシック型メロディーは、クラシック音楽の語法がベースになったメロディーです。

最初期のゲーム曲にはクラシック楽曲の丸コピーも多くありました。

クラシック型メロディーといっても幅広いのですが、3和音時代は和音数が少なくても成立しやすいバロックや古典派的な素朴なものが多いです。

スーパーファミコン時代以降はオーケストラの表現も可能になったため、ロマン派以降の雰囲気の壮大な曲も増えました。楽器編成などについては、アレンジの話になるので、そちらは後で解説します。

クラシック型メロディーを好む作曲家は、すぎやまこういちさんが代表格ですが、悪魔城ドラキュラシリーズなんかはバロック調のフレーズが定番ですね。

悪魔城シリーズの作曲者、山根ミチルさんはクラシカルなメロディーを多用しますがJMM度も相当高いです。

初期ゲーム音楽アレンジに共通する特徴

今、古典的なゲーム音楽のメロディーを大雑把に4つのカテゴリーに分けてみましたが、これらのメロディー要素が様々なアレンジ要素と組合わさることで、他のジャンルに無い個性=ゲーム音楽らしさというのが生まれてくるのではないかと感じています。

後半は、上でお話したようなメロディータイプと、曲の方向性を決定づける音色や細かい音符の並べ方などといったアレンジ(編曲)との関係性を考えてみましょう。

アレンジに関しては、初期ゲーム音楽全般に共通する普遍的な手法がいくつかありますので、以下に一つずつ解説していきます。

コードアルペジオの多用

初期ゲーム音楽はとにかくコードアルペジオを多用します。

単音でコード感を表現するために時間差でコード音を鳴らすわけですが、バッキングパートのみならず、主旋律にも多用されました。

コンピューターでのシーケンス演奏ということを逆手にとって、人間の手では演奏が難しいような高速で複雑なアルペジオパターンも多用され、結果的にこれが煌びやかでテクニカルな印象を付加することになりました。

シンプルなベースライン

次にベースラインについてですが、ファミコン時代までの3和音時代はルート弾きや5度弾き(ルートと5度音を交互に弾く)で、リズムも8分弾き(8分音符連打)など、シンプルなものがほとんどでした。

複雑で変態的なベースラインの曲もありましたがレアケースです。

初期ゲーム音楽のベースラインがシンプルだったのは、同時発音数が2音か3音だったために、他のパートで基本的なビートを出すことが出来ず、ベースパートがルート音を小節や拍の頭で出してやらないと、コード感も小節感も弱くなってしまうという事だったのではないかと思います。

ベースパートがベードラやハイハットなんかの役割も兼ねていたわけですね。

2和音や3和音の環境で、凝ったベースラインというのはアレンジがとても大変だし、楽曲バランス崩壊のリスクも大きいので、優先順位的にメロディー(音数が少ないので主旋律の説得力が問われる)・副旋律・アルペジオに力を入れて、ベースは無難にルートで8分弾き、みたいなスタイルが主流になったんだと思います。

少し時代が進んで6和音以上になってくると、ベースパートは自由度が増してアレンジのバリエーションも豊かになっていきました。

楽曲タイプ別のアレンジ手法

初期のゲーム音楽には上に挙げたような、ある程度共通したアレンジ手法はあると思いますが、今度は楽曲タイプ別にアレンジの方向性を考察してみようと思います。

PSG時代は全部が同じような矩形波様の音色だったので、例えば、同じクラシック系でも、ピアノ曲ぽくしたいのか、オーケストラ風にしたいのか?など、アレンジの方向性が不明瞭な場合が多かったですが、FM音源時代以降は方向性が良く分かるようになりました。

以下に、初期のゲーム音楽で使われる楽曲タイプ別のアレンジ傾向を書いていきます。

ロック/フュージョン型アレンジ

ロック/フュージョン型アレンジは、打楽器とベースがリズムセクションとなってビート感とコード進行感を下支えするアレンジですが、これがゲーム音楽の世界にハッキリした形で現れてきたのはFM音源時代からではないでしょうか。

ハングオンスペースハリアーから続くセガのアーケード作品や、ファルコム時代の古代祐三さん作品あたりから一気にロック/フュージョン系アレンジのゲーム音楽が増えた印象があります。

これは音色の制約の問題が影響していると思われ、PSG音源ではベース&打楽器のリズムセクションを表現しきれかったのが、FM音源ではよりディテールのはっきりしたリズムセクションが表現可能になったというのが大きいですよね。

ロック・フュージョン系アレンジで重要な役割を担うベースの音色ですが、PSG系だと低音域がぼやけたり音痴に聴こえるという致命的な状態だったのが、FM音源ではピッチも正確なシャープなベースラインを表現出来るようになりました。

ただ、FM音源はシャープなシンセベース系には強いのですが、太く丸い音質のアコースティック系のベースの音色は、同時代の波形メモリー音源のほうが良い場合もありましたが。

ベースの音色の問題に関しては、スーパーファミコンの段階でほぼ解消しましたが、ロックアレンジにおいてベースや打楽器と同じくらい重要なディストーションギターの音色だけはFM音源や初期のPCM音源では今一つリアルに再現出来ず、これが解消するのは初代プレステ以降になります。

また、打楽器に関しては、FM音源と同時期(一部のアーケードゲームでは1985年頃から)に導入された打楽器専用のPCM音源もロック・フュージョン系アレンジの強化に一役買っていました。

PCM音源が本格的に普及するのは1990年代からですが、打楽器系のみなら、それほどサンプル数が多くなくてもそこそこリアルな再生が可能だったため、一般の音楽制作でもリズムマシーンという形で1980年代から普及していました。

テクノ型アレンジ

電子楽器特有の音色やシーケンスパターンを中心に据えたアレンジです。

テクノミュージックを含むクラブミュージック/EDM系のアレンジは、4つ打ちなどの打ち込みっぽいビートを前面に押し出していたり、機械的なシーケンスフレーズ(これが主旋律になったのが、上で書いたテクノ/ミニマル型メロディーとなります)が延々と繰り返されたりと、メカニカルな要素を強調するものが多いですが、そんな系統のアレンジですね。

クラシック型アレンジ

クラシック音楽型のゲーム音楽は、最初期の頃からクラシック系メロディーで独奏的なアレンジのものは相当数ありましたが、初期ドラクエシリーズによって洗練された2和音から3和音の手法が提示され、スーファミ時代にはオーケストラアレンジが普及するなど、ハードウエアの同時発音数と音色バリエーションが増えるに従って表現の幅が広がっていきました。

現在では、クラシック音楽系アレンジのゲーム音楽はゲームの演出に欠かせないものになっていますが、PSG音源・波形メモリー音源・FM音源などの初期音源では、生楽器の集合体であるクラシック音楽型アレンジを再現するのは限界がありました。

これはロック/フュージョン型と同様に音色や音数の制約によるものなのですが、オーケストラをイメージして作ってもMIDIで作ったイージーリスニングに聴こえたり、生ピアノ独奏の雰囲気にしたかったのに音の重なりや強弱による音色変化が無いのでモノシンセで弾いているように聴こえたり、といった具合でした。これはこれで個性とも言えますが。

スーパーファミコンの時代になっても、当時のPCM音源はリアルさという意味ではまだまだでしたが、個々のパートが何の楽器の音か明確に判別出来るようになって、オーケストラアレンジへの道が開けたというのは、ゲーム音楽制作者にとっては革新的な出来事だったのです。

クラシック系楽曲は副旋律重視

初期のゲーム音楽の中でもクラシック系の楽曲は、他の系統のものに比べてメロディー重視で、リズムセクションより副旋律が重要視される傾向があるのではないでしょうか。

3和音時代のクラシック系楽曲の場合、音楽に2音使えるなら主旋律と副旋律、3音使えるなら、それにベースパートが加わるパターンが多いのですが、こういう形のアレンジでは副旋律が重要な役割を担っています。

副旋律は、①主旋律を支え、②コード感も出しつつ、③曲に立体感を与えていくという役割を1音でやることになるため、副旋律の付け方で曲の完成度がまるで違ってくるのです。

3和音時代の名曲といわれるものは、たいてい副旋律が良く出来ていますよね。

副旋律のアレンジ手法としては、一般的なコード理論に基づいた作り方の他、対位法的な手法で作ってあるものも多いです。

ただ、初期のゲーム音楽はしっかりとした音楽理論に基づいて作っている作曲家はまだ少なかったので、対位法云々は結果論という面もあります。そういう意味では、すぎやまこういちさんなどは別格でした。

――次回からはコード進行など、さらに細かい事に話を進めようと思います!

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