ゲーム音楽のリズム要素【ゲーム音楽論06】

前回までで、ゲーム音楽の和音や音階についてやってきましたが、和音、音階と来たら、残る大きな要素は「リズム」です。

音楽は音程要素と時間要素で表現される芸術ですが、時間要素を受け持つリズムは極めて重要なものと考えます。

今回はゲーム音楽をリズム面から分析してみようと思いますが、結論から言うと「典型的なゲーム音楽」のリズム要素は、曲単位では複雑なものも相当数存在するのですが、全体傾向として明快で分かりやすいものが多いです。

なお、一般的なリズムに関する基礎知識をフラメンコギターブログの「音楽理論ライブラリー」にて解説していますので、予備知識としてご一読ください。

「ゲーム音楽的なメロディー」のリズム要素

「ゲーム音楽的なメロディー」ということをリズム面から考えてみましょう。

目立つ特徴としては、ノリの良さを演出する常套句として、符点音符・2拍3連・3拍4連などの変則符割りの多用があげられます。

そして、シーケンス演奏ならではの機械的な符割りも多いですよね。

人間の手では演奏困難なパターンも多く、自分はそういうのを聴くと弾いてみたくなる一種の変態なのですが(笑)

ただ、こうした変則的な符割りも小節感がわかりやすい範囲でやっている場合がほとんどです。

恐らく、小節感・ビート感がわからなくなるほどやってしまうと、ゲームのテンポ感・没入感が損なわれるためだと思われます。

ゲーム音楽で多用されるリズムタイプ

今お話したのは「メロディーのリズム要素」ですが、今度は「アレンジのリズム要素」について考えてみましょう。

「アレンジのリズム要素」とは、編曲によって特定カテゴリーのリズムパターンを演出するリズムアレンジ手法ですが、ここでは「リズムタイプ」と呼ぶことにします。

では、ゲーム音楽で良く使われるリズムタイプを挙げていきます。

ロック型リズムタイプ

ロック型リズムタイプは、ドラムスとベースで作られたビートが骨組みになったリズムアレンジです。

PSG時代はスネアドラムをノイズで表現したりしていましたが、ロック型リズムタイプが本格的に浸透するのは1986年頃からで、PCMリズム音源が使用可能になったあたりで一気に発展します。具体的にはスペースハリアー(1985年11月、セガ)あたりからでしょうか。

ロック型リズムアレンジのリズムパターンとして典型的なのは8ビート(ベースドラムが奇数拍、スネアドラムが偶数拍に入る4/4拍子)ですが、スカやスラッシュメタルなどで使われる2ビートや3連系のシャッフルビート、さらにはダブルベースドラムを駆使したメタルビート等も8ビートの変化形としてここに含めます。

テクノ型リズムタイプ

テクノ型リズムタイプは、人工的な打ち込みっぽさを前面に出したリズムアレンジです。

音楽ジャンルでいうと、テクノ(テクノポップ含む)、ハウス、トランス、アシッドジャズなどのEDM(エレクトリックダンスミュージック)系の音楽が該当しますが、1980年代のディスコビートなんかもここに含まれます。

代表的なリズムパターンは、キックを4分音符で鳴らすいわゆる「4つ打ち」です。

「4つ打ち」をベースに、キックを変則的にしたり、他の打楽器も入れて複雑化させたパターンも多いのですが、概ね2拍子・4拍子のビート感を強力に出すように作られているのが特徴です。

というのも、EDM系の音楽はもともとがクラブなどで発展してきたダンスミュージックなので、どんな人でもノリやすいビートというのが大前提なのです。

テクノアレンジ特有の一定サイクルの単調なビートは没入感を得られやすく、とくに1990年代から2000年代のタイトーやケイブのシューティングゲームで好んで使用されています。

テクノ型リズムタイプがロック型と違うのは、ドラムス+ベースの構成でなくても成立するところでしょうか。

ビート感が強く出ているシーケンスパターンを鳴らしておけば打楽器は必須ではないので、PSG時代からテクノ型リズムタイプは多用されていました。例えば、初期のボンバーマンシリーズやカービィシリーズの音楽もテクノ型の一種と捉えることができます。

ラテン型リズムタイプ

ラテン型リズムタイプは、コンガ、ボンゴなどのパーカッションを主体にしたラテン系のビートです。サンバ・ボサノバ系もここに含みます。

ゲーム音楽ではビート感を補強するために、ドラムスやテクノ系ループと組合わさることも多く、そうなるとちょっとカテゴリー分けは曖昧になってきますが。

リズムパターンの特徴としては、ロック型やテクノ型のリズムタイプはきっちりした2拍サイクルのリズムパターンが多いですが、ラテン型は1拍半のノリや、小節の頭を強く出さない弱起のパターンが多く、最初からシンコペーションが組み込まれたようなリズムパターンになっています。

初期ゲーム音楽ではファンタジーゾーン(1986年、セガ)がラテン型のリズムアレンジを採用していましたよね。

スーパーマリオブラザーズ(1985年、任天堂)も、フレージングなどから判断するとラテン系の雰囲気を狙ったものと思われます。

ラテン型リズムタイプは、シンプル化すればシェイカー1本で成立したりもしますが、ロック・テクノ系よりも音色バリエーションや強弱が求められるので、本格的にゲーム音楽に浸透したのはスーパーファミコン時代以降でした。

クラシック型リズムタイプ

クラシック系の音楽は楽器編成上、上記の3種類のリズムアレンジほどハッキリしたビートがなく、メロディーと伴奏が一体になったリズム表現になります。

ロック型・テクノ型・ラテン型は打楽器によるハッキリしたビートの上で、メロディーが裏拍でのっていたりして遊びも多いのですが、クラシック系は大きく小節単位で捉える感じで、メロディーも表リズムと白玉音符(ロングトーン)主体のものが多いのが特徴です。

速いパッセージもありますが、リズム的には表拍から入って表拍に抜けるようなシンプルなものがほとんどです。

もう一つの特徴として、クラシック系の楽曲は3拍子、6/8拍子も多いですよね。

また、クラシックとポピュラーの境目になるのが、鼓笛隊・マーチングバンド的なリズムアレンジで、打楽器を全面に出すことでクラシック系楽曲のビート感を補強するものです。

マーチングのリズムパターンとしては、表リズム主体で、小節感をサポートするようなフレージングなので、ある意味テクノ系のリズムアレンジと性質が似ているのかもしれません。

クラシック系リズムアレンジのゲーム音楽は、クラシック系楽曲全般が該当するので多数ありますが、代表格はやはりドラゴンクエストシリーズでしょうか。2音か3音のファミコン音源であそこまでの表現をした所が驚異的ですよね。

ジャズ系の4ビートについて

以上の、ロック型・テクノ型・ラテン型・クラシック型の4系統がゲーム音楽でよく使われるリズムアレンジですが、逆にあまり使われないのがジャズ系の4ビートでしょうか。少しその理由を考えてみました。

ジャズのリズムアレンジを言語化すると、ビートキープはウォーキングベースとハイハット/シンバルレガート任せだったりして、その他は極力自由なリズム表現が重視されるので、全体としてはあまり強力にビート感を出さない傾向な感じがします。

そして、4ビートってスイング(リズムの跳ねかた)の具合がリアルタイムに微調整されたりするし、そもそもインプロビゼーションでのリズムプレイをアレンジで再現する事自体がナンセンスで、コンピューターでの演奏に適していないのではないかと。

和音・フレーズ単位で見るとジャズぽい要素の曲はゲーム音楽にも沢山ありますが、ほとんどがフュージョン/クロスオーバー系のアレンジだったり、スイングジャズ以前のシンプルなスタイル(スイングジャズのスタイルならループでも作りやすそう)だったりしますし。

モダンジャズな4ビートがベースになったゲーム音楽は、レコーディングによる制作が当たり前になった現在ですら極小数だし、取り込むのが難しいジャンルの感じがします。

ちなみに、初期のものでジャズ系ゲーム音楽というと、エレベーターアクション(1983年、タイトー)やアイスクライマー(1985年、任天堂)あたりが元祖でしょうか。ガチのジャズ系だと、エキサイティングビリヤード(1987年、ファミコンディスクシステム、コナミ)とか、スーパーファミコンの『ごきんじょ冒険隊』の「通常戦闘」などがあります。

近年では、カービィの楽曲のジャズアレンジがグラミー賞を受賞したりしているので、ジャズ×ゲーム音楽の新たなムーブメントが起こるかも知れませんね。

フラメンコのリズム

これは余談になりますが、自分の専門ということで、少しフラメンコのリズムとゲーム音楽の関係性の話をさせてください。

ゲーム音楽でたまに使われるフラメンコ風の音楽は、ラスゲアードなどのフラメンコギターのテクニックは使われていたりしますが、純フラメンコのリズムではなく、上に挙げたラテンビートの一種がベースになったものが圧倒的に多いです。具体的には、ジプシーキングスなどのジプシーロック、ジプシールンバのリズムですね。

「時の傷痕」しかり、「熱情の律動」しかりです。

ちなみに、フラメンコのルンバは弱起でシンコペーションが多く、4拍目にアクセントやコードチェンジが来たりしますが、こちらは一般的な認知度も低いし、ゲーム音楽では聴いたことがないです。

あと、本来の純フラメンコのリズムは3拍子系がベースとなっていて、フラメンコの4拍子系のリズムはラテンアメリカから逆輸入された比較的新しいものです。

複数のリズムタイプの複合

これは一般の音楽でも良く行われている手法なのですが、異なるリズムタイプを組み合わせて、新たなグルーヴを生み出すというのはゲーム音楽の常套手段でもあります。

以下に、良くある組み合わせとゲーム音楽での例を列挙してみます。

ロック型+テクノ型=テクノロック
ロックマンシリーズ、忍者龍剣伝シリーズ等

ロック型+ラテン型=ラテンロック・ラテンフュージョン
ファンタジーゾーン、アウトラン等

テクノ型+ラテン型=ラテンハウス・ダンスホールレゲエなど
マリオシリーズやスーパードンキーコングシリーズの一部楽曲等

変拍子の活用

ここまで分析してきたように、基本的にゲーム音楽のリズムは、没入感・感情移入度・集中力を高めるという目的から「誰もがノリやすい」「理解しやすい」ものが主流となっていますが、場合によっては複雑化が求められることもあります。

ゲーム音楽でのリズム複雑化というと、具体的には変拍子が多用される傾向があります。ぱっと思いつくものだと、ドルアーガの塔とか、真・女神転生「廃墟」とか、昔から変拍子を使った曲は結構ありますよね。

変拍子はクラシック音楽では結構出てきますが、ポピュラー音楽の時代になると。ほぼ4拍子の音楽のみ(たまに3拍子とか6/8拍子もありますが)になりました。そうしないと大衆に受け入れられず、売れないから。

変拍子って、クラッシック系以外だとプログレッシブロックとか一部のテクノとか(あと、フラメンコも)、マニア向けのジャンルの専売特許のようなイメージですが、ゲーム音楽作曲家で変拍子を好んで使う人はプログレファンである確率が高いのではないでしょうか。

リズムの複雑化ということで言うなら、星のカービィスーパデラックス「VSマルク」など、シーケンス演奏ということを逆手に取った分析困難なほどカオスなリズムの曲も存在しますが、そうしたものは一つ一つがレアケースであり、共通の傾向を系統立てて解説するのは難しいでしょう。

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