ゲーム音楽作曲家列伝「番外編」第20回は、2015年に発表したインディーズゲーム『アンダーテール(Undertale)』が世界的なヒットとなった事で一躍注目を集めたゲームクリエイター・作曲家のトビー・フォックス(Toby Fox)さんの紹介です。
トビー・フォックスさんはアンダーテールの成功をきっかけに、様々なゲームや映像作品に曲提供するようになりましたが、近年はポケモンシリーズなどのメジャー作品にも作曲家として参加しています。
トビー・フォックスさんプロフィール・略歴
本名:Robert F. Fox(ロバート・F・フォックス)
通称:Radiation(ラジエーション)
生年月日:1991年10月11日
ゲーム音楽作曲家デビュー:2015年9月(アンダーテール)
ゲーム音楽代表作品:アンダーテール、デルタルーン、ポケモンシリーズ
トビー・フォックスさんはアメリカのボストン在住のゲームクリエイター・作曲家です。出身はニューハンプシャー州マンチェスター。ノースイースタン大学で環境科学を専攻しました。
トビーさんは犬好きとして知られており、アンダーテールにもドット絵の白い犬のキャラクターが登場しますが、メディアに露出する時はあの犬のキャラクターのお面を付けて登場したりしてトレードマークとなっています。
彼の初期の活動としては、2006年頃(15歳くらい?)に『MOTHER2 ギーグの逆襲』(1994年、任天堂)のROMハック(改造ゲーム)『EarthBound Halloween Hack』を公開したことが知られています。
その後、2008年頃にアンドリュー・ハッシー氏のWebコミック『Homestuck』に曲提供を開始し(公開は2009年)、2009年には同氏が募集した音楽チームのメンバーとなったことで本格的にクリエイターとしてのキャリアをスタートさせました。
アンダーテールについて
出世作であるアンダーテールは大学在籍中から構想し(同時に続編のデルタルーンの構想も既にあったらしい)、2012年末頃から制作に着手。クラウドファンディングで資金を募り、また、テミー・チャン(Temmie Chang、イラストレーター・ユーチューバー)氏の協力を得て、2年7か月かけて完成させています。
トビーさん曰く「アンダーテールは万人向けではないRPG」だそうですが、シューティングゲームの要素を採り入れた戦闘システムと、8ビット時代的な個性的なグラフィックス、優れたシナリオと音楽がインターネットの口コミを中心に徐々に話題になり、最終的には300万本以上売れてインディーズゲームとしては異例の大ヒットを記録。この成功をきっかけに、トビーさんには各方面から声がかかるようになり、任天堂・ゲームフリークから依頼を受けて、ポケモンシリーズや『リトルタウンヒーロー』などに作曲家として参加するようになりました。
アンダーテールは2017年8月にプレイステーション4・Vita版の発売に合わせて日本語版の配信が始まり、翌2018年9月にはニンテンドーSwitchにも移植されました。
また、2018年10月にはアンダーテールの続編『デルタルーン(DELTARUNE)』がリリースされました。デルタルーンは大作のため5分割リリースという予定になっていて、2021年11月にはChapter2をリリース。後続のリリースが待たれています。
ゲーム作品以外の活動
ゲーム作品以外の活動としては、2018年8月に糸奇はな(日本のシンガーソングライター)さんとの共作曲「74」(トビーさんは作詞・作曲・ゲストヴォーカルとして参加)がYouTubeで公開され、同曲は糸奇はなさんのアルバム『PRAY』にも収録されました。
また、2022年4月から配信が開始されたポカリスエットのCM曲「Pale Rain」をimase(TikTokで人気化した日本人シンガー)、PUNPEE(全米iTunesチャート2位の実績がある日本人ラッパー/DJ)と共作した話題も記憶に新しいですよね。
現在、トビーさんは手と手首の慢性的な痛みでPCや楽器の操作が出来ず、制作活動に支障が出ている状態だそうです。のリリースの遅れもこれが影響しているとの事ですが、早期の回復とさらなる活躍をお祈りいたします。
トビー・フォックスさんの音楽
トビー・フォックスさんは詳しい経歴を公開していないので、過去の音楽経験などは不明なのですが、メイン楽器はピアノで、それにシンセや打ち込みを組み合わせて制作するスタイルだと思われます。
何のジャンルのピアノをやっていたのかは不明ですが、アンダーテール等の音楽を聴く限り、ヨーロピアンロックのカラーが濃いかな?とも感じるし、クラシックの素養も感じます。子供の頃クラシックピアノを習って、その後ロックを聴くようになってバンドで演奏していた、みたいな音楽歴でしょうか。
そして、ご本人もそういう発言をしていますが、1980年代末から1990年代前半を中心とした日本のゲーム音楽の影響が大きいことは確実です。トビーさんはゲームを始めとした日本のコンテンツの大ファンであり、少しですが日本語も話せるということで、日本人としてはとても嬉しいですよね。
影響を受けたゲームタイトルとして、MOTHERシリーズ、真・女神転生シリーズ、ライブアライブ、マリオ&ルイージRPGシリーズ、東方Projectシリーズを挙げていますが、代表作のアンダーテールではとくにMOTHERシリーズと東方Projectシリーズの影響が強いように思います。
アンダーテールに関しては、サントラとセットで売られていたりして、制作側としても音楽の比重がかなり大きいのを感じます。
東方ProjectのZUN氏も自分の音楽を売り出したい一心でゲーム本体を自作したそうですが、同じ香りがしますよね。
アンダーテールの楽曲は昔のゲーム音源風に作られているものも多いですが、コードやベースラインの付け方とかが独特で、ちょっと曇ったようなピアノの音色の作り方にもこだわりを感じます。
リズムトラックも特徴的で、打ち込みっぽさを前面に出しつつも、EDM系音楽とは明らかに違った方向性ですよね。ドライなロックぽさというか、ゲーム音楽で言うと『スプラトゥーン』(2015年、任天堂)とか、あのへんと共通のものがあるような。
当ブログでもアンダーテールの楽曲をアレンジ演奏していますので是非チェックしてみて下さい。
トビー・フォックスさんのゲーム音楽作曲作品
2015年
Undertale(PC、自主製作)
2016年
Rose of Winter(PC/iOS/Android、Pillow Fight)
2017年
Hiveswap(PC、What Pumpkin Games、ジェームズ・ローチと共作)
2018年
DELTARUNE(PC/SW/PS4、自主製作)
2019年
Escaped Chasm(PC、Temmie Chang、ジェームズ・ローチと共作)
YIIK:ポストモダンRPG(PC/PS4/SW、Ackk Studios、一部)
大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL(任天堂、アンダーテールの楽曲を編曲)
リトルタウンヒーロー(PC/SW/Xbox1/PS4、ゲームフリーク、佐藤仁美と共同)
ポケットモンスター ソード・シールド(SW、任天堂、一之瀬剛、足立美奈子と共作)
Pesterquest(PC、What Pumpkin Games、一部)
2020年
Dweller’s Empty Path(PC、Temmie Chang)
OMORI(PC、OMOCAT、一部)
2021年
DELTARUNE Chapter2(PC/SW/PS4、自主製作)
2022年
beatmania IIDX 30 RESIDENT(AC、コナミ、かめりあと共同)
ポケットモンスター スカーレット・バイオレット(SW、任天堂、一部)
※略号
AC=アーケードゲーム
PS4=プレイステーション4
SW=ニンテンドーSwitch
PC=パソコン
コメント