発売年月:1993年8月
機種:スーパーファミコン(Super Nintendo)
メーカー:スクウェア(SQUARE)
タイトル名:聖剣伝説2(Secret of Mana)
曲名:子午線の祀り(Meridian Dance)
作曲:菊田裕樹(Hiroki Kikuta)
演奏難易度:☆★★★★(難しい)
ゲーム音楽ソロギター演奏動画・コード進行解説の第36弾は、聖剣伝説2よりラスボス戦のテーマ「子午線の祀り」です。
この曲はとても凝った作りになっていて分析とアレンジにかなり苦労したので、「難曲アレンジ例」として、その手順を書いてみようと思います。
聖剣2のラストバトル曲【曲紹介】
前々回のクロノトリガー「風の憧憬」、前回のロマンシングサガ3「四魔貴族バトル1」に続き、スクウェアのスーパーファミコン作品3連発です。
聖剣伝説2からは、昨年、タイトルテーマの「天使の怖れ」に続いて2曲目ですが、聖剣伝説2の作品概要については「天使の怖れ」の記事をご覧ください。
この曲「子午線の祀り」はラスボス曲で、聖剣伝説2の曲の中でも1、2を争う人気曲です。
作曲者は菊田裕樹さん。
曲題について
この「子午線の祀り」という曲名は平家物語を題材とした、木下順二の戯曲作品からの引用です。
「天使の怖れ」もそうですが、聖剣伝説2の曲名は何やら意味深なものが多くて、文学作品や戯曲、学術書まで、いろんなところから引用されていています。
引用元ととくに繋がりはないらしいですが、曲のイメージに合うインパクトある言葉を選んでいますよね。
この曲の英題は「Meridian Dance」ですが、次回作の聖剣伝説3に「Meridian Child」という曲があって、この曲の展開部のメロディーがアレンジされて再登場します。
「天使の怖れ」と並んで、菊田さんが担当した聖剣伝説シリーズの大きなテーマをあらわすメロディーなんだと思います。
「子午線の祀り」の評価
ネットで調べると、この曲「子午線の祀り」の素晴らしさを書き綴ったサイトがたくさんあって、ちょっと驚きました。
ゲーム音楽最高作品との声も高いです。
ここでは、他のサイトとは違う角度で楽器プレイヤー目線から書いてみようかと思います。
プログレ度が高い内容
まず音楽の内容ですが、プログレ度高いです。
変拍子・目まぐるしく変わる曲調・複雑な転調・途中の細かいシーケンスパターン・シンセっぽい主旋律の音色、など。
菊田さんのバックボーンであるプログレ要素が全面的に押し出された曲と思います。
そして、後半になってはじめて登場する、メインテーマと言えるメロディーがいいですね。音の選び方がちょっと変態的なんですが、個性的かつメロディアスに仕上がっています。
変拍子はセクションの境目に入ってくる1拍字余りが強烈にカッコいいです。
コード進行は詳しくはコード進行解説記事でやりますが、メジャー7thコード平行移動多用(菊田さんのオハコですが、同じプログレ派の植松さん、桜庭さんも多用)するところや、ループの最後のところの元のキーへの戻しかたがプログレぽいですねー。
過去屈指のアレンジ難易度【ソロギター演奏】
聖剣伝説2はまだ2曲しかやってませんが、両方とも高難易度となっています。
「天使の怖れ」は、中盤の長い6連符フレーズがどうしてもベース音入れながら弾きたかったので、そういうふうにアレンジしたら技術的にえらく難しくなってしまった、という感じでした。
今回の「子午線の祀り」は、テクニック面は、左手がきつい動きの連続で、終盤はもう指がつりそうになりながら弾いてます。
でも、この曲はテクニックよりアレンジが大変でした。
非常に凝った作りになっていて、コード分析はああでもないこうでもないと何回も考え直したし、アレンジも演奏するキーやフレーズ、代理コードの可能性、細かい弾きかたもいろいろ試しては変えて、アレンジでこんなに難航したのは今のところ、ダライアス2「say PaPa」とこの曲だけです。
ちなみに前回のロマンシングサガ3「四魔貴族バトル1」のときに言っていた、アレンジが難航して間に合わなかった曲というのがこの曲です。
コードに関してはコード進行分析のコーナーで解説しますが、リズムも変拍子が所々入ってくるので、分析しながらリズムトラックのプログラムをしました。
イントロは途中から3拍子になりますが、Aメロの入りが7拍子になります。
途中、16分音符のブリッジのあとBメロへ入るのですが、今度は1拍字余りの5拍子が入ってきます。
2つのメインメロディーの導入に変拍子を使用していますが、これカッコいいですね!
ソロギターへのアレンジでは、演奏するキーを決めるのに試行錯誤して時間かかってます。
オリジナルキーのG♭メジャーキーだと、ギターと音域がぜんぜんマッチしてない感じで、メロをオクターブずらしたり、ベース音をあんまりルートで出せなかったりだったので、4度下げてD♭メジャーキーでやっています。
このキーであれば、Aメロのベースに解放弦が使える&指板がフルに使えるようになってオクターブ変更をかなり減らせます。
途中の16分音符のブリッジ部分は原曲は4回繰り返しですが2回に減らしています。
最初は後半2回をハモりパートにして練習してたんですが、これをやると難易度はね上がるし、ハモりパートだけだと、なんかイマイチなので短縮して2回にしました。4回同じシーケンスはさすがにしつこく感じたので。
子午線の祀り コード進行
オリジナルのG♭メジャーキーをD♭メジャーキーに移調しています。
イントロ
|A♭7sus4|A♭7sus4|A7sus4|A7sus4|
|B♭sus4|Bsus4|
|Csus4|D♭sus4 Dsus4|
Aメロ
|Am7|Am7|Am7|Am7|
|D7(onA)|D7(onA)|Am7|Am7|
|Am7|Am7|Am7|Am7|
|D7(onA)|D7(onA)|Am7|Am7|
|FM7|E♭M7|D♭M7|D♭M7|
|C|Csus4 C7|
ブリッジ
|Fm7|Fm7|Fm7|Fm7|
|Fm7|Fm7|Fm7|Fm7|
Bメロ
|Fm7|Fm7|Fm7|Fm7|
|D♭M7|E♭7|B♭7sus4|B♭7|
|Fm7|Fm7|Fm7|Fm7|
|D♭M7|E♭7|B♭7sus4|B♭7|
|D♭M7|D♭M7|Fm Fm6|Fm7 F7sus4|
|D♭M7|D♭M7|A♭M7|A♭M7|
|D♭sus4|D♭sus4|EM7|EM7|
|E♭7 A♭M7|D♭7 G♭M7|
|B(♯11)|AM7|
|A♭add9|A♭M9|
コード進行分析
メジャー7thコードにリディアン、マイナー7thコードにドリアンを当てていますが、いちいち転調とすると煩雑になりすぎるので、属調への一時的転調=モードチェンジとして処理しました。
イントロ(D♭メジャーキーから半音ずつ上昇)
■D♭メジャー
|Ⅴ7sus4|Ⅴ7sus4|
■Dメジャー
|Ⅴ7sus4|Ⅴ7sus4|
■E♭メジャー
|Ⅴ7sus4|
■Eメジャー
|Ⅴ7sus4|
■Fメジャー
|Ⅴ7sus4|
■G♭メジャー
|Ⅴ7sus4 ■Gメジャー Ⅴ7sus4|
Aメロ(Gメジャーキー=Aドリアン)
|Ⅱm7|Ⅱm7|Ⅱm7|Ⅱm7|
|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅱm7|Ⅱm7|
|Ⅱm7|Ⅱm7|Ⅱm7|Ⅱm7|
|Ⅴ7|Ⅴ7|Ⅱm7|Ⅱm7|
■Cメジャー(下属調)
|ⅣM7|♭ⅢM7|♭ⅡM7|♭ⅡM7|※1
|Ⅰ7|Ⅰ7|
ブリッジ
■Cマイナー(同主調、Fドリアン)
|Ⅳm7|Ⅳm7|Ⅳm7|Ⅳm7|
|Ⅳm7|Ⅳm7|Ⅳm7|Ⅳm7|
Bメロ
■Fマイナー(下属調)
|Ⅰm7|Ⅰm7|Ⅰm7|Ⅰm7|
|♭ⅥM7|♭Ⅶ7|Ⅳ7sus4|Ⅳ7|
|Ⅰm7|Ⅰm7|Ⅰm7|Ⅰm7|
|♭ⅥM7|♭Ⅶ7|Ⅳ7sus4|Ⅳ7|
|♭ⅥM7|♭ⅥM7|Ⅰm※2|Ⅰm|
|♭ⅥM7|♭ⅥM7|♭ⅢM7※3|♭ⅢM7|
■A♭メジャー(平行調)
|Ⅳ7|Ⅳ7|♭ⅥM7|♭ⅥM7|
|Ⅴ7 Ⅰ7|Ⅳ7 ♭Ⅶ7|
|♭ⅢM7※4|♭ⅡM7|
|Ⅰ|Ⅰ|
D♭メジャーキー(下属調)に転調してループ
※1 メジャー7thコード(リディアンスケール)の全音下降
※2 Fドリアン=Cマイナーキーに一時的転調
※3 A♭リディアン=Cマイナーキーに一時的転調
※4 Bリディアン=G♭メジャーキーに一時的転調
簡単な部分は皆無【コード進行のポイント】
ポイントというか、ほぼ全編ポイントなんですが……。
イントロはsus4コードをつけていますが、4度堆積っぽい響き&動きですよね。
AメロはAドリアンモード(=Gメジャーキー)です。
Aメロ後半はⅣM7からのメジャー7th全音下降でCマイナーキー(Fドリアンモード)にもっていっています。
ブリッジはFドリアンモードなんですが、Cマイナーキーとして記載。
そして、FマイナーキーのBメロが来ますが、Bメロ後半のアナライズがくそ難しいです。
自分の解釈はFマイナーキー平行調のA♭メジャーキーに行って、最後のⅠadd9をピボットにして、元のD♭メジャーキーに戻してループ、という感じだと思うんですが。
アレンジ手順
この曲は演奏動画のアレンジに行くまでに、2つくらいボツアレンジがあって足かけ3週間ほどかけています。
その全手順を公開いたします。
キーの決定
毎回、最初はオリジナルキーでアレンジしてみてから動画演奏用のキーを検討します。
この曲はオリジナルはG♭メジャーキーから始まりますがメロディーの音域がギターと合ってないなー、と思いました。
高い音で弾きたいところが弾けなかったり、逆に低音域で弾きたいところは音域が低くなりすぎてベースと干渉したり。
そういう場合、3度以上音域を変えてやらないと上手くいかない場合が多いです。
この曲は色々試した結果、完全4度ずらしました。
- Aメロで5弦解放・4弦解放が生かせる
- 弦1本ずらせばいいのでオリジナルキーから移調するのに比較的楽
という理由からですが、他にもっとうまく弾けるキーもあるかもしれませんね。
多くの場合キーを確定する段階で仮アレンジもメドがついていると思います。
では、演奏用アレンジを曲の頭から解説していきます。
イントロ
原曲のイントロはアルペジオです。
自分も最初はアルペジオで演奏していました。
でも、なんかイマイチなんですよね。自分の技術だと原曲のような勢いが出せません。
ここのアルペジオはそこまでこだわってないのでリズムプレイに差し替えにしました。
次のセクションほラスゲアードでやりたい!というのは決まっていたので、そこに繋げる感じで軽くラスゲアードも絡めていきます。
ラスゲアードでキメを弾いたらAメロに入ります。
Aメロ
Aメロは2回同じモチーフを繰り返すので、原曲と同じ感じでオクターブ変えたほうがいいだろなー、というのはありました。
でも、低音域で弾くとベースと被ります。
そういうとき、自分がよくやるのはフラメンコ奏法でよく使う低音アルペジオです。
これならコード感もベース音も維持したまま、正確なリズムで低音メロが弾けます!
そして、オクターブ上で繰り返ししたあとFM7に飛ぶわけですが、上に行くか下に行くか、ちょっと考えます。
そのあとメロとコードが下降していくので、ここは上ですね。
Aメロ最後のCのキメの部分は最初アルペジオでやってたんですが、線が細くなりすぎたのでラスゲアードを入れました。
Fmのブリッジ部分
Aメロの次のブリッジ部分は曲中最難関と思われますが、ここのシーケンスはなるべく原曲通りに弾きたかったです。
イントロのアルペジオはどっちでもよかったんですが、ここはダメなんです。
その基準は主観です(笑)
なので、人によってはここは省略、でもイントロのアルペジオは絶対弾きたい!ということもあるわけで、各自、好きにやりましょう。
ここは、もう半音下のキーでやれば6弦解放でベース入れられるんですが、やってみたら弾きにくくなる&輪郭がぼやけるということで、その案はボツにしました。
最初フルピッキングに近い弾き方で練習していたんですが、技巧ギリギリでリズムもちゃんと入らなかったりなのでスラーに変えました。
Bメロ
Bメロはもう1オクターブ下からはじめるパターンもありかもしれませんが、前のブリッジからの流れで高音域でスタートさせてます。
この曲は全体にメロの音の選び方が凝っているので、ベース音+メロの2音構成を基本にしつつ、入れられるところは3和音か4和音にしています。
それでも無理な動きもあって、左手がかなりきついです。
解放弦使えるところは使っていますが、転調も激しいので結局どのキーでやってもセーハでのきつい動きは避けられず、難易度はそんなに変わらなそうです。
今回採用したD♭メジャーキーは、キーがメロのオクターブ変更を最小限に出来るし、重要なメロがほぼ高音弦で弾き切れるので最良かと思いました。
「子午線の祀り」アレンジまとめ
今回のアレンジの方向性としては「多少技巧的に厳しくなっても、練習して無理矢理でも弾いてやろう」ということで、チャレンジ的内容になりました。
コード分析なども高難易度だし、初心者に勧められる内容ではありませんが、難曲に挑むときはこんな感じになります。
こういう曲のアレンジは一発で決まることはほとんど無いし、練習も時間がかかるしで、星1つや2つの曲に比べると数倍以上は時間がかかるのが普通です。
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