神前暁【ゲーム音楽作曲家列伝番外編15】

ゲーム音楽作曲家列伝「番外編」第15回は、MONACA(ナムコ出身の岡部啓一氏が作った音楽制作会社)に所属するアニソン界のトップクリエイターの一人、神前暁さんです。

神前さんは『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』など、アニソンの作曲で脚光を浴びていますが、かつてはナムコに所属してゲーム音楽を作っていました。

ナムコ退社後もアニメと平行して相当数のゲーム音楽を手掛けているので、ゲーム音楽作曲家列伝としては本編で扱うか番外編で扱うか迷うところなのですが、一般的には「アニソン作曲家」というイメージのほうが強いと思われるので番外編で扱う事としました。

神前暁さん プロフィール・略歴

本名:神前暁(こうさき さとる)
別名・通称:池田慎司・さきっちょ
生年月日:1974年9月16日
ゲーム音楽作曲家デビュー:2000年3月(アクアラッシュ)
ゲーム音楽代表作品:ことばのパズルもじぴったんシリーズ、鉄拳シリーズ、アイドルマスターシリーズ

神前暁さんは3歳からヤマハ音楽教室へ通ってピアノやエレクトーンを習っていましたが、子供時代は音楽家になる事は全く意識しておらず、練習が嫌いで小学校5年のときに音楽教室を辞めてしまったといいます。

しかし、音楽への興味はずっと持ち続け、中学高校時代は吹奏楽部に所属してトランペット演奏していました。――ちなみに、現在に至るまで最も得意とする楽器はトランペットで、ナムコ在籍中も社内トランペッターとして同社ゲーム音楽の収録に参加したりしています。

その後、コンピューターへ興味を持つようになり、京都大学工学部情報工学科に進学しますが、大学在学中に学内の作曲サークル「吉田音楽製作所」に所属して作曲活動を開始しました。

大学卒業後1999年にナムコに入社してサウンド部門に所属。ナムコには2005年まで在籍し、鉄拳シリーズ、ことばのパズルもじぴったんシリーズなどを手掛けました。

ナムコ退社後は、ナムコの先輩である岡部啓一氏(ゲーム音楽作曲家列伝本編で紹介予定)が設立したMONACA(2004年設立の音楽制作会社)に入社して、以降はMONACA経由でアニメやゲームの音楽制作を行う事になります。

MONACAに移ってからも、引き続きナムコ(バンダイナムコ)で担当していたシリーズタイトルなどのゲーム音楽も手掛けていましたが、2006年にTV放送されたアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』(谷川流さんのライトノベルが原作。神前さんが音楽を担当)が大ヒットしたことをきっかけに、一気にアニメの仕事が増えていきました。

神前さんが音楽を手掛けたアニメ作品は多数ありますが、涼宮ハルヒシリーズ以外で有名なところでは、『らき☆すた』(2007年に神前さん作曲の主題歌「もってけ!セーラーふく」がオリコン2位を記録)『セキレイ』『かんなぎ』『化物語』(他『物語』シリーズ多数)『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『STAR DRIVER 輝きのタクト』『夏目友人帳』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』などに曲を提供しています。

こうして超売れっ子のアニソン作家となった神前さんですが、オーバーワークによる疲労のせいか、2014年冬に体調不良を理由に休養を宣言。1年あまりの休養後、2016年1月にアニメ『傷物語』で現場復帰しました。

2019年4月からは洗足学園音楽大学の客員教授として教壇に立っています。

神前さんはアニソン・ゲーム音楽の他にも、中川翔子・西川貴教・ももいろクローバーZなどのアーティストへの曲提供もしていたり、近年ではアニメ以外の実写映画やTV番組の音楽制作にも意欲を示していて、今後さらなる活躍が期待されている作曲家です。

神前暁さんの音楽

神前暁さんはインストと歌モノの両刀使いのスタイルで、その作風の遍歴を見ると、2005年までのナムコ時代は殆どがインスト曲でしたが、MONACAに移ってアニメ音楽を担当するようになってから急激に歌モノ(主題歌や挿入歌)の作曲が増え、それらが高く評価された事で、ゲーム音楽の仕事も歌モノの比率が高くなりました。

アニソン作曲家としては「劇伴と挿入歌、両方いける」というところが重宝されたことは間違いないと思いますが、神前さんという作曲家の本質を考えると、ご本人もインタビューで言っていたように、「依頼に応じてどんな音楽でも作る職人的な作曲家である」と感じます。

そういうフラットな制作姿勢の中で、タイミングや需給によってアニソン分野で高く評価され、世間的には「アニソン作曲家」ということになっているのかなと。

神前さんが手掛けたゲーム音楽を聴いてみると、歌モノはアニソンの作風とほぼ同様だと思うのですが、インスト曲は年代や作品によって作風が異なり、とても同じ人が作ったとは思えないほど器用で引き出しが多い作曲家だと思いました。

神前さんのインスト系ゲーム曲の音楽性を敢えて言葉にするなら、テクノ・ロック寄りの楽曲の中にストリングスがいい感じで絡んでいたり、曲によって民族音楽要素が散りばめられていたり、ボサノバっぽいエッセンスもあったり、自分はそんな印象です。

デビュー作の『アクアラッシュ』の楽曲は、ミニマルテクノとかアシッドジャズっぽいですが、初期はそういうテクノ・クラブミュージック系の楽曲を得意としていましたよね。

神前さんのゲーム曲で最大ボリュームを占める『ことばのパズル もじぴったん』シリーズには名曲が多数ありますが、PSGぽい音色を多用していたりして(というか全体にチップチューンぽい)、昔のゲーム音楽も相当お好きなんだろうと思われます。

神前暁さんのゲーム音楽作曲作品

2000年

アクアラッシュ(AC、ナムコ、大半を作曲)

PS2版 鉄拳タッグトーナメント(PS2、ナムコ、一部)

2001年

鉄拳4(AC/PS2、ナムコ、一部)

ことばのパズル もじぴったん(AC/PS2、ナムコ、大半を作曲)

2003年

R:RACING EVOLUTION(PS2/GC/Xbox、ナムコ、一部)

ことばのパズル もじぴったん アドバンス(GBA、ナムコ、川元義徳と共作)

ゆめりあ(PS2、ナムコ)

2004年

鉄拳5(AC/PS2/PSP、ナムコ、一部)

ことばのパズル もじぴったん大辞典(PSP、ナムコ、一部)

ゼノサーガ フリークス(PS2、モノリスソフト/ナムコ、一部)

2005年

太鼓の達人 とびっきり!アニメスペシャル(AC、ナムコ、OP曲)

THE IDOLM@STER(AC/Xbox360、ナムコ、1曲)

2006年

Rappelz(PC、NFLAVOR、一部)

2007年

鉄拳6(AC/PS3/PSP/Xbox360、バンダイナムコ、1曲)

ことばのパズル もじぴったんDS(DS、バンダイナムコ)

涼宮ハルヒの約束(PSP、バンダイナムコ、一部)

2008年

ことばのパズル もじぴったんWii(Wii、バンダイナムコ)

らき☆すた 陵桜学園 桜藤祭(PS2、角川書店、1曲)

PS2版 シークレットゲーム -KILLER QUEEN-(PS2、FLAT、OP曲)

2009年

THE IDOLM@STER Dearly Stars(DS、バンダイナムコ、一部)

セキレイ~未来からのおくりもの~(PS2、加賀クリエイト、ED曲)

2010年

探偵オペラ ミルキィホームズ(PSP、ブシロード、ED曲)

2011年

鉄拳タッグトーナメント2(AC/PS3/WiiU/Xbox360、バンダイナムコ、1曲)

2015年

初音ミク -Project DIVA-(PSP/PSV/PS3/PS4、セガ、OP曲)

2020年

百鬼異聞録~妖怪カードバトル~(iOS/Android、NetEase、高田龍一と共作)

※略号
AC=アーケードゲーム
GBA=ゲームボーイアドバンス
PS2=プレイステーション2
PS3=プレイステーション3
PS4=プレイステーション4
PSP=プレイステーションポータブル
PSV=プレイステーションVita
DS=ニンテンドーDS
PC=パソコン

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