ゲーム音楽作曲家列伝では、ゲーム音楽がメインの邦人作曲家を紹介してきましたが、「番外編」としてゲーム音楽の活動がメインではない作曲家や外国人作曲家の紹介をしています。
今回は、数多くの肩書きを持つ実業家で第一線のクリエイターでもあるゲーム業界のカリスマ、志倉千代丸さんです。
志倉さんは、ずっとゲーム業界を中心に活躍されてきたのでゲーム音楽作曲家列伝本編で扱うべきか悩ましかったのですが、「専業のゲーム音楽作曲家」というにはバランス的に実業家としての実績が大きいし、作曲する楽曲の内容的にもJポップ/アニソン系のボーカル曲が圧倒的に多いため、番外編で紹介させていただく事としました。
志倉千代丸さんプロフィール・略歴
本名:志倉千代丸(しくら ちよまる)
生年月日:1970年7月3日
ゲーム音楽作曲家デビュー:1993年12月(スーパーファイヤープロレスリング3 Final Bout)
ゲーム音楽の代表作品:スーパーファイヤープロレスリングシリーズ、爆走デコトラ伝説シリーズ、ひぐらしのなく頃にシリーズ、CHAOS;HEADシリーズ、STEINS;GATEシリーズ
志倉千代丸さんは、ゲームメーカーの5pb.及び後継会社であるMAGES.の代表や、ドワンゴ(現KADOKAWAグループ、ニコニコ動画の運営会社)の取締役など要職を歴任していて、その他にも、株式会社CHIYOMARU STUDIO代表取締役社長、ル・アイド芸能株式会社代表取締役会長、株式会社ドキドキグルーヴワークス取締役、株式会社クラスジャパン学園取締役などの肩書を持つゲーム業界の有名実業家であり、ゲームデザイナー/音楽クリエイターとしても一線級の活躍をされている方です。
志倉さんの父は「ミュージカルぼーいず」の志村としお氏、兄は音楽プロデューサー/ゲームプロデューサーの富士丸翔氏(千代丸さんと共に5pb.を設立)という家に生まれましたが、子供の頃は音楽よりも当時出始めたパソコンが興味の中心で、BASICで自作ゲームを作って雑誌に投稿したりしていたのが、中学時代にBOØWYに影響を受けてバンドをやるようになり、作詞・作曲に興味を持つようになったということです。
一方で、小学生時代からのコンピューター/ゲームへの興味とプログラムの勉強もずっと継続しており、音楽への興味とコンピューター/ゲームへの興味が合体してDTMやゲーム音楽制作という形へ帰結していくのにそれほど時間はかからなかったのではないでしょうか。
高校卒業後はNECの子会社に就職して通信技術系の仕事をやっていたようですが、1993年頃にゲーム業界に転職。最初に入ったのがヒューマンでした。
ヒューマンに入社した動機は「その頃良くプレイしていたファイヤープロレスリングシリーズの音楽を自分の好きなように作りたかった」というものだったようですが、プログラ厶も出来たために即採用され、念願のファイヤープロレスリングシリーズを担当。その後、爆走デコトラ伝説シリーズの演歌BGMが評価されて業界に名前を知られるようになります。
ヒューマン退社後は、アニメ・ゲーム系の音楽制作会社であるサイトロン・デジタルコンテンツに入社。水樹奈々さん・小倉優子さん・榊原ゆいさんなどのアーティストへの楽曲提供もするようになります。
また、この時期に作ったCMソング「NOVAうさぎのうた」が人気化して一般の音楽業界での知名度も一気に上がりました。
2005年にサイトロンから独立する形でゲーム制作会社5pb.を設立して代表取締役に就任。2011年にはAG-ONEと5pb.が合併してMAGES.となり、志倉さんは代表取締役社長に就いています。
さらに、2013年にドワンゴがMAGES.を完全子会社化。翌2014年にはKADOKAWAとドワンゴが経営統合されたことで、MAGES.はKADOKAWAグループの一員となり、志倉さん自身はMAGES.会長、ドワンゴ取締役、角川ドワンゴ学園理事という要職を占めるに至りました。
その後、CHIYOMARU STUDIOの設立と、MAGES.及びCHIYOMARU STUDIOの角川グループからの独立を経て、2020年からコロプラの傘下に入りました。
直近では2023年1月にMAGES.の会長職を退き、現在の肩書きはエグゼクティブプロデューサーとなっています。
志倉千代丸さんの作るゲーム音楽
志倉千代丸さんは、実業家・作曲家・文筆家・ゲームデザイナーなど様々な顔を持っていますが、ここではゲーム音楽(というかゲームソング)作曲家としての面を考察してみます。
志倉さんのキャリアを大まかに分けると①ヒューマン時代②サイトロン時代③5pb.設立後――という感じになると思いますが、各年代によって作風が変わっていきます。
これは立場の変遷によって仕事として求められる内容が変わっていったという事だと思いますが、時代別にみていきましょう。
ヒューマン時代(1993年から1999年頃)
まず1993年から1999年頃のヒューマン時代について、1995年までのスーパーファミコン時代はファイヤープロレスリングシリーズなどインストの楽曲が中心だったのが、プレステ時代に入ってからはボーカル曲が中心となっています。
スーパーファイヤープロレスリングシリーズについては、どの曲を志倉さんが担当したのかまではハッキリ分かりませんが、全体にギターリフを主体としたハードロック調の曲が中心です。
一方、プレステ時代の代表作=爆走デコトラ伝説シリーズは珠玉の演歌集となっています。
表向きベタベタな演歌アレンジの中で、たまに洒落た音使いも入ったりするのも良いし、何よりサビへの盛り上げ方がめちゃめちゃ上手いですよね。
アポなしギャルズ お・り・ん・ぽ・す(PS、1996年)、御神楽少女探偵団(PS、1998年)では、声優が歌うアニソン調(御神楽少女探偵団のほうは少しジャジーなアレンジ)のボーカル曲を担当していて、これは現在まで続く路線であり、時代の先取りをしています。
サイトロン時代(2000年から2005年頃)
2000年から2005年頃のサイトロン時代は、主にKIDの恋愛シミュレーションゲームなどの音楽を担当していましたが、その後もずっとタッグを組むこととなる阿保剛さん、磯江俊道さんと仕事をする機会が多くなりました。
この時期からBGMなどのインスト楽曲は阿保さんと磯江さんに任せ、志倉さんは主題歌や挿入歌などのボーカル曲に専念するというスタイルが定着していったようです。
この時期の作風としては、担当ゲームタイトル(主に恋愛シミュレーションゲーム)の世界観に合わせた結果と思いますが、水樹奈々系の透明感あるメロディー重視の楽曲が多いですよね。
5pb.設立後(2005年以降)
志倉さんは2005年の5bp.設立後も、サイトロンで手掛けていた仕事を継続していた模様ですが、2008年に自らゲームデザインを手掛けたCHAOS;HEADあたりからまた少し作風が変わっていったように思います。
志倉さんは元々ロックバンドで歌もの楽曲を作編曲していたのと、それと並行してPCを駆使した打ち込みで音楽を作っていたことから、ロック・ポップ系のボーカル曲にメカニカルな打ち込みのアレンジを組み合わせていくのが最も得意なスタイルと思われますが、CHAOS;HEADあたりから、いよいよそのスタイルを全面に押し出してきたように思います。
サイトロン時代まではゲーム会社の意向に合わせて楽曲を提供していたのが、5pb.とMAGES.ではゲーム作品の世界観から自分でプロデュースすることが可能になったため、音楽も志倉さんがやりたいことを好きにやれる環境を整えられた、ということだと思いますが、これは劇伴や編曲を支える阿保さん&磯江さんというパートナーの力も大きかったのではないでしょうか。
そして、5pb.及びMAGES.のタイトルのヒットとともに志倉さんの書いたボーカル曲はゲーム業界に広く認知される事となったわけです。
そんな経緯があり、志倉さんの楽曲制作・提供スタンスは、ゲーム音楽作曲家というよりは一般のロック・ポップス系アーティスト・作曲家のそれに近いものとなっています。
志倉千代丸さんは実業家としても音楽家としても、色んな意味で規格外の立ち位置にいて、それがカリスマと呼ばれる所以でしょうね。
志倉千代丸さんのゲーム音楽作曲作品
1993年
スーパーファイヤープロレスリング3 Final Bout(SFC、ヒューマン、山崎正通と共作)
1994年
スーパーファイヤープロレスリングSPECIAL(SFC、ヒューマン、一部)
1995年
スーパーファイヤープロレスリングX(SFC、ヒューマン)
1996年
アポなしギャルズ お・り・ん・ぽ・す(PS/SS、ヒューマン、1曲)
1998年
御神楽少女探偵団(PS、ヒューマン、1曲)
爆走デコトラ伝説~男一匹夢街道~(PS、ヒューマン、一部)
ゲッターラブ!! ちょー恋愛パーティーゲーム(N64、ハドソン、サントラに1曲提供)
1999年
爆走デコトラ伝説2 男人生夢一路(PS、スパイク、一部)
デバイスレイン(PS/SS、スターライトマリー、1曲)
Memories Off(PS、KID、2曲)
2000年
NEVER7 -the end of infinity-(DC、KID、一部)
2001年
Memories Off 2nd(PS/DC、KID、2曲)
Close to 〜祈りの丘〜(DC、KID、3曲)
2002年
想い出にかわる君 〜Memories Off〜(PS2、KID、3曲)
Ever17 -the out of infinity-(PS2/DC、KID、4曲)
2003年
爆走デコトラ伝説 男花道夢浪漫(PS2、スパイク、一部)
Memories Off Duet(PS2、KID、追加曲)
メモオフみっくす(PS2、KID、1曲)
Take off!(PC、b-Wings、1曲)
2004年
Memories Off 〜それから〜(PS2、KID、4曲)
Remember11 -the age of infinity-(PS2、KID、3曲)
W〜ウィッシュ〜(PS2、プリンセスソフト、2曲)
2005年
真・爆走デコトラ伝説 ~天下統一頂上決戦~(PS2、スパイク、一部)
Memories Off After Rain(PS2、KID、2曲)
Memories Off #5 とぎれたフィルム(PS2、KID、3曲)
2006年
Memories Off 〜それから again〜(PS2、KID、2曲)
魂響〜御霊送りの詩〜(PS2、イエティ、1曲)
ARIA The NATURAL 遠い記憶のミラージュ(PS2、アルケミスト、2曲)
ブルーブラスター(PC、工画堂スタジオ、1曲)
I/O(PS2、レジスタ、1曲)
2007年
Memories Off #5 encore(PS2、KID、2曲)
ひぐらしのなく頃に祭(PS2、アルケミスト、4曲)
はぴねす!でらっくす(PS2、ういんどみる、1曲)
Myself ; Yourself(PS2、レジスタ、2曲)
2008年
CHAOS;HEAD(PC、5pb./ニトロプラス、3曲)
真・爆走デコトラ伝説 ~天下統一頂上決戦~(Wii、ジャレコ/5pb.、2曲)
12RIVEN -the Ψcliminal of integral-(PS2/PC、サイバーフロント、1曲)
ユア・メモリーズオフ〜Girl’s Style〜(PS2/PSP、5pb.、1曲)
メモリーズオフ6 〜T-wave〜(PS2/PSP、5pb.、2曲)
ひぐらしのなく頃に絆(DS、アルケミスト、シリーズで6曲)
タユタマ -Kiss on my Deity-(PC、Lump of Sugar、2曲)
G線上の魔王(PC、あかべぇそふとつぅ、4曲)
2009年
うみねこのなく頃に散(PC、07th Expansion、一部)
STEINS;GATE(Xbox360/PS3/PSP、5pb.、4曲)
トリガーハート エグゼリカ エンハンスド(PS2、童、1曲)
ARIA The ORIGINATION 〜蒼い惑星のエルシエロ〜(PS2、アルケミスト、2曲)
この青空に約束を─ てのひらのらくえん(PSP、戯画、1曲)
シャイニング・フォース クロス(AC、セガ、1曲)
2010年
CHAOS;HEAD NOAH(Xbox360/PSP、5pb.、4曲)
CHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!(Xbox360/PSP、5pb.、3曲)
のーふぇいと! 〜only the power of will〜(Xbox360/PSP、アルケミスト、1曲)
スカーレッドライダーゼクス(PS2、レッド・エンタテインメント)
2011年
メモリーズオフ ゆびきりの記憶(Xbox360、5pb.、1曲)
STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん(Xbox360/PS3/PSP、5pb.、2曲)
スカーレッドライダーゼクス-STARDUST LOVERS-(PS2、レッド・エンタテインメント)
DUNAMIS15(PS3/PSP/Xbox360、5pb.、1曲)
ファントムブレイカー(Xbox360、5pb.、1曲)
2012年
スカーレッドライダーゼクス I+FD ポータブル(PSP、レッド・エンタテインメント)
ROBOTICS;NOTES(Xbox360/PS3/PSP、5pb.、3曲)
2013年
STEINS;GATE 線形拘束のフェノグラム(Xbox360/PSV、5pb、2曲)
解放少女SIN(PS3/PSV、5pb.、3曲)
2014年
CHAOS;CHILD(Xbox1/PS3/PSV、5pb.、4曲)
2015年
STEINS;GATE 0(PS3/PS4/PSV、5pb.、3曲)
スカーレッドライダーゼクス Rev.(PSV、レッド・エンタテインメント)
ひぐらしのなく頃に粋(PS3/PSV、加賀クリエイト、一部)
新次元ゲイム ネプテューヌⅦ(PS4、コンパイルハート、1曲)
2017年
OCCULTIC;NINE(Xbox1/PS4/PSV、5pb.、4曲)
かまいたちの夜 輪廻彩声(PC、5pb.、1曲)
2018年
無双OROCHI3(PS4/SW、コーエーテクモ、1曲)
2020年
明治活劇 ハイカラ流星組 -成敗しませう、世直し稼業-(SW、アイディアファクトリー、2曲)
ひぐらしのなく頃に命(iOS/Android、ディ・テクノ、1曲)
※略号
SFC=スーパーファミコン
SS=セガサターン
PS=プレイステーション
N64=ニンテンドー64
DC=ドリームキャスト
PS2=プレイステーション2
PS3=プレイステーション3
PS4=プレイステーション4
PSP=プレイステーションポータブル
PSV=プレイステーションVita
DS=ニンテンドーDS
SW=ニンテンドーSwitch
PC=パソコン
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